皆さんはワイドギャップ半導体という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?これは半導体材料の特徴を示すバンドギャップというものが比較的大きいものです。半導体材料として最も有名なシリコン(Si)は1.1eVという値を持っています。一方、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などが代表的なワイドギャップ半導体なのですが、これらは2.0eV以上のバンドギャップの値を持っています。ワイドギャップ半導体は、その結晶合成が難しいことから半導体としての実用化が困難でした。しかし近年、結晶合成の技術が進歩し、半導体としての応用のための研究が本格的になってきました。(ちなみに半導体以外の応用としてSiC結晶は宝飾材料としても応用されています)
アチソン法により合成したSiC
GaNウェハ
ワイドギャップ半導体であるSiC、GaNの応用として最も期待されているのは、パワーデバイスと呼ばれる大電力用半導体素子の分野です。現在、パワーデバイスはSiを元に作られていますが、Siでは扱える電力が限られるため、より大電力が扱えるSiC、GaNによるパワーデバイスの実用化が待たれています。ちなみにこのようなパワーデバイスがどこに使われているかというと電車やハイブリッド自動車のモーターを駆動するインバーター、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサー用のモーターを駆動するインバーター、パソコンのスイッチング電源、分散電源の電源回路などです。SiC、GaNによるパワーデバイスが実用化すれば日本全体で大きなの省エネルギー効果が期待されます。また、それだけではなくSiCは熱伝導率が高く、GaNは動作周波数が高いので、Si素子を用いた時に比べてパワーモジュールの体積が減少しスペース効率の上昇と軽量化が図れます。その結果、すでに電車の速度を制御するインバーターには採用されており、まもなく自動車や新幹線に採用される予定となっています。(参考:トヨタ自動車のホームページ http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/2657262
2kW級インバーター素子における
SiとSiC素子の電力損失比較
しかしながら、SiC、GaNパワーデバイスの普及には超えるべきハードルが多くあります。例えば、SiC、GaNの結晶はSiの結晶に比べて欠陥が多く、それらの欠陥によりデバイスの性能が落ちてしまいます。また、SiC、GaNの結晶はまだ小さいためデバイスの製造にコストがかかります。そのような課題を解決するため本研究室ではパワーデバイス実用化のためのSiC、GaNに関する研究を行っています。例えば結晶の電気的な特性を評価したり、欠陥の影響をなくすプロセス技術を開発したりしています。また、それに応じて評価装置、プロセス装置の開発も行い、本研究室オリジナルの装置も複数あります。本研究室の評価・プロセス技術で生み出されたデータは国際会議や学術論文で発表され、世界レベルでも通用するものになっています。
本研究室オリジナルのSiC、GaNキャリアライフタイム評価装置

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